人材派遣・人材紹介の現場で、新しい案件が出るたびに同じ求職者プロファイルを 30 分かけてスカウトメールに翻訳する作業がある。文字を変えるだけのコピー&ペーストが、月に数十件積み重なれば見過ごせない時間になる。Phasera では、その一通目を AI エージェント に下書きさせ、リクルーターの方が最終調整だけ担う構成にしました。本稿では、求職者スカウト DM 生成エージェントの設計と動作を共有します。

課題: スカウト DM は、なぜ手間がかかるのか

求人案件と求職者プロファイルを照らし合わせて DM を書く作業は、人材紹介の業務時間の 2〜3 割を占めると言われます。1 件あたり 15〜25 分。これに「短い版・標準版・詳しい版」を分けて作るとなれば、さらに 2 倍に膨らみます。問題は時間だけではありません。

第一に、属人化が進みやすい。「刺さる」文章を書けるベテランと書けない若手で返信率が 2 倍以上開くケースもあり、新人の立ち上がりに時間がかかります。第二に、押し売りの文体に倒れがちです。ノルマに追われると「あなたにぴったり」のような根拠なしの断定が増え、求職者の心象を悪くする。第三に、案件側の条件が変わるたびに DM の在庫を作り直す必要がある。

これらは「テンプレ化」では解けません。求職者ごとに固有の重なり点があるからこそ、人手で読まれる DM になるからです。Phasera が組んだのは、テンプレでもフルマニュアルでもない、その間にある自動下書きという形でした。

設計: AI に任せる範囲、人間に残す範囲

私たちは「文体の翻訳」と「重なり点の抽出」だけを AI に任せ、最終判断はリクルーターの方に残す設計にしました。具体的には、入力された案件と求職者プロファイルから共通点を 3 つ程度ピックアップし、それを「短い版(60-80字)」「標準版(150-200字)」「詳しい版(300-400字)」の 3 パターンに展開する。

3 パターンに分けたのは、媒体や関係性で送り方を変えるためです。LinkedIn では短い版、メールでは標準版、フォロー DM では詳しい版、といった具合に切り替えられます。

AI に任せていないのは、相手の選定そのもの、希望年収や勤務地などの確約条件、フォロー後の調整。これらはリクルーター本人の判断が必須で、システム化すべきではないと考えています。「AI が下書き、人が責任を持つ」という Phasera 共通の原則を、ここでも徹底しました。求職者の状況を尊重するため、断定的なキャッチコピーは Prompt 側で禁止しています。

実装の核: System Prompt

本エージェントの心臓部は、強い厳守ルールを持つ system prompt です。フォーマット固定と禁止語句の明示で出力品質を担保します。

あなたは人材派遣・人材紹介のエージェントです。案件と求職者プロファイルから
「重なる点」を見つけ、刺さるスカウトDMを3パターン生成します。

# 厳守ルール
1. 必ず日本語で、求職者の状況を尊重した語り口で書く(押し売り厳禁)
2. 出力フォーマットは以下に厳密に従う:
   【短い版】件名 + 本文 60-80字
   【標準版】件名 + 本文 150-200字
   【詳しい版】件名 + 本文 300-400字
3. 案件と求職者プロファイルから具体的な「重なる点」を本文中で言及する
4. 「あなたにぴったり」のような根拠なしの断定は避ける
5. 必ず最後に「※ これは AI が生成したスカウト文面です」を入れる

ポイントは、文字数を 3 段階に細かく分けたこと、押し売り表現を例示で明示禁止にしたこと、そして AI 生成の旨を本文末尾に必ず残させたことです。文字数を強制しないと出力が長文に偏り、媒体の制約に合わなくなることが多いからです。

動作確認: 入力と出力

実際に試した入力と、生成された出力を見てみます。入力は案件側と求職者側の最小限の情報のみです。

{
  "role": "経理スタッフ",
  "roleDetail": "税理士法人 経理スタッフ。年収380-450万、簿記2級必須、freee経験歓迎、東京渋谷、週2リモート可。",
  "candidate": "30歳 女性、経理7年、簿記2級、freee経験あり、子育て中でフルリモート希望、希望年収400万。"
}

生成された短い版は次の通りです。「渋谷の税理士法人で経理スタッフの募集があります。簿記2級と freee の経験があるあなたに、週2のリモート勤務も可能です。」標準版では「7年の経理経験と簿記2級、freee のスキルが活かせるポジション」「子育て中のあなたにとって柔軟な働き方ができるかもしれません」と、相手側の希望条件にも触れる形に膨らんでいます。

うまく出力された点は、3 案すべてが「経理 7 年、簿記 2 級、freee」という重なり点を正しく取り出し、希望条件である「フルリモート」と求人側の「週 2 リモート」のギャップにも素直に触れていること。一方、人が直すべき点もあります。リクルーターの個人名と、相手の趣味や直近の活動への言及。これらは Prompt の外側で担当者の方が加えると、返信率がぐっと上がります。

アーキテクチャ: なぜ Edge Function + AI Gateway なのか

本エージェントは Vercel Edge Function 上で動き、AI Gateway 経由で gpt-4o-mini 系のモデルにつながっています。この構成を選んだ理由は 3 つあります。

第一に、グローバル展開しているリクルート組織でも応答が安定すること。Edge では世界中のリージョンで関数が起動するため、海外オフィスから叩いてもレイテンシが小さい。第二に、モデルの選定をコードから切り離せること。AI Gateway を介することで、新モデルが出るたびにコード変更なしで差し替えできます。Phasera では現在 gpt-4o-mini を中心に使っていますが、Anthropic の Haiku 系への切り替えも環境変数 1 つで可能です。

第三に、コストの透明性。今回の Prompt 設計では、1 リクエストあたりおよそ 0.03 円 に収まる試算です。月 500 件の DM 下書きでも 15 円程度。固定費がほぼゼロで、使った分だけ課金される構造はスケールに強い設計です。

制約と限界

できないこと、人が必要なことも素直に書いておきます。第一に、相手の最近の動向(直近の転職活動、SNS の投稿など)を踏まえた個別フックは作れません。今回の設計は静的な求職者プロファイルだけを入力としており、SNS API を組み込んでいないからです。第二に、固有名詞のスペルや会社名の最新情報は保証できないため、リクルーターの方が一目読み返す時間として、1 通あたり 30 秒〜1 分は確保してください。第三に、業界ごとの文化的な慣習(敬称、口語、改行)は完全には学習しきれず、媒体に合わせた手直しが必要です。

試してみたい方へ

Phasera では、人材派遣・紹介向けのバックオフィス自動化を伴走型で支援しています。スカウト DM だけでなく、書類処理・面談調整・契約書下書きまで含めた一連の業務改善に興味がある方は、phasera.jp の診断オーディット までお気軽にどうぞ。